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福岡地方裁判所 昭和40年(ワ)755号 判決 1968年7月31日

原告

堤正良

ほか三名

被告

有限会社林酸素商会

ほか一名

主文

(一)  被告らは、各自、

(1)  原告堤愛子に対して金六四万九、三三三円

(2)  原告堤正良、同堤亮二、同岩山淳子に対して各金三〇万二二二円

(3)  原告らに対して、それぞれ右各金銭に対する昭和四〇年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金銭の支払をせよ。

(二)  原告らのその余の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(四)  この判決の第一項は、仮に執行することができる。ただし、被告らが共同して、原告堤愛子に対して金二〇万円、原告堤正良、同堤亮二、同岩山淳子に対してそれぞれ金一〇万円の担保を供するときは、その原告に対して、右仮執行を免れることができる。

事実

(当事者の申立)

原告らは「(一)被告らは、各自、原告堤愛子に対して金一八三万三、〇七八円、原告堤正良、同堤亮二、同岩山淳子に対してそれぞれ金九三万二、一三八円及びこれに対する昭和四〇年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金銭の支払をせよ。(二)訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに右第一項につき仮執行の宣言を求め、被告らは「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決並びに仮執行免脱の宣言を求めた。

(原告の請求原因)

一、原告堤愛子(以下原告愛子という)は、堤喜次郎(以下喜次郎という)の妻であり、原告堤正良(以下原告正良という)、同堤亮二(以下原告亮二という)、同岩下淳子(以下原告淳子という)は右喜次郎の実子である。

二、被告有限会社林酸素商会(以下被告会社という)は、酸素の販売を業とする会社で、大型貨物自動車(佐一せ二〇二号、以下本件トラツクという。)を保有し、右営業のためこれを運行の用に供しているものであり、被告田中利男(以下被告田中という)は、被告会社の指揮監督のもとに本件トラツクを運転して連日被告会社の酸素ボンベの運送に従事しているものである。

三、喜次郎(明治三八年八月二四日生)は、昭和四〇年二月二八日、第一種原動機付自転車(以下本件バイクという)に乗り、福岡市大字麦野那珂団地方面から福岡県筑紫郡大野町田屋方面に通ずる市道が同市大字麦野四四番地の二自衛隊自動車運転練習場側で国道(三号線)と交差する右市道を右那珂団地方面から同交差点方面に向つて進行し、同日午前八時一五分ごろ、右交差点に入つた際、国道を鳥栖方面から福岡市方面に向つて被告会社の酸素ボンベを積んで進行して来た被告田中運転の本件トラツクに衝突され、よつて頭頂部打撲兼肋骨々折、右側胸部打撲兼肋骨々折、右胸腹部内臓破裂、右上腕粉砕骨折、右肺肋骨穿刺、右大腿、下腿部打撲挫創の傷害を受け、右傷害に基づき同日死亡した。

四、本件事故は、被告田中の次のような過失に起因する。すなわち、被告田中は、酸素ボンベを積載した本件トラツクを運転し、時速四〇粁を大きく上回る相当な高速度で本件事故現場附近にさしかかつたが、自動車の運転者は常に前方を注視し、進路上に現われる人、車両等を早期に発見し、それらの動静に応じて減速徐行するなどして適切な措置をとり、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、前方に喜次郎運転の本件バイクを認めながらこれに対する充分の注意を払わず、そのままの速度で進行した過失により本件事故を発生させたものである。

五、本件事故によつて生じた亡喜次郎及び原告らの損害は次のとおりである。

(一)  亡喜次郎の損害

1 治療費、金二万七、〇〇〇円

2 請負業による得べかりし利益、金二八八万七、八九七円

喜次郎は、保温工事請負業を営み、必要経費を差引き、年間金八六万五、三八二円の利益を得ていたので、同人の生活費年額金三六万円(月額金三万円)を控除した金五〇万五、三八二円の年間純利益を得ていた。そして、同人は明治三八年八月二四日生れで、事故当時満五九才の健康な男子であつたから平均余命は一六年で、なお八年間稼働可能であつた。従つて、喜次郎が今後八年間に得ることができた利益の総額は金四〇四万三、〇五六円に達するが、これからホフマン式計算法により民法所定年五分の中間利息を控除すると、金二八八万七、八九七円となる。

3 恩給による得べかりし利益のうち、金四二万七二八円

喜次郎は、死亡当時年額九万五、六二〇円の恩給の支給を受けていたが、死亡後は妻であつた原告愛子がその半額にあたる四万七、八一〇円の扶助料の支給を受けている。従つて、喜次郎が死亡しなかつたならば、右扶助料を控除した年額金四万七、八一〇円の利益を得ていた筈である。喜次郎が今後一六年間(余命)に得ることができた利益の総額は金七六万四、九六〇円に達し、これからホフマン式計算法により民法所定年五分の中間利息を控除した内金四二万七二八円。

(二)  原告愛子の財産上の損害

原告愛子は、喜次郎の死亡により葬儀費として別紙葬儀費一覧表記載のとおり、金二三万五、八七〇円を支出し、同額の損害を蒙つた。

(三)  原告らの慰藉料

原告らは夫であり父である喜次郎が本件事故により死亡したため、甚大な精神的苦痛を蒙つた。これを金銭に見積ると原告愛子は金八一万九、三〇〇円、原告正良、同亮二、同淳子はそれぞれ金四一万二、九〇〇円が相当である。

六、原告らは、喜次郎の共同相続人として、前項(一)の1から3の損害賠償請求権を相続分に従い、原告愛子は金一一一万一、九〇八円、原告正良、同亮二、同淳子はそれぞれ金七四万一、二三八円宛相続した。従つて、原告愛子の被告らに対する損害賠償請求権は右金一一一万一、九〇八円と前項(二)の葬儀費金二三万五、八七〇円と同項(三)の慰藉料金八一万九、三〇〇円合計金二一六万七、〇七八円となり、他の原告ら損害賠償請求権は、それぞれ右相続による金七四万一、二三八円と前項(三)の慰藉料金四一万二、九〇〇円合計金一一五万四、一三八円となる。

七、原告らは、喜次郎の死亡により自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)による保険金一〇〇万円の支給を受けたので、これを相続分に応じて按分し、被告らに対する損害賠償請求権のうち、原告愛子は金三三万四、〇〇〇円を、他の原告らはそれぞれ二二万二、〇〇〇円を充当する。

八、よつて原告らは、被告田中に対しては民法第七〇九条により、被告会社に対しては自賠法三条本文により、次の金銭の支払を求める。

1  原告愛子

金一八三万三、〇七八円

2  原告正良、同亮二、同淳子

各金九三万二、一三八円

3  原告ら

右各金銭に対する本件事故発生の翌日である昭和四〇年三月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

(被告らの答弁)

請求原因第一項は知らない。同第二、三項は認める。同第四項は否認する。同第五項中、(一)の(1)は知らない、2のうち喜次郎の生活費が年間三六万円(月額三万円)であつたことは認めるがその余は知らない、3は知らない、(二)は知らない、(三)は否認する。同第六項は知らない。同第七項は認める。同第八項は争う。

(被告らの抗弁)

一、被告会社の抗弁

本件事故については、次に述べるとおり、自賠法第三条但書の要件が備わつているから、被告会社には、損害賠償の責任がない。

(一)  被告会社及び運転者である被告田中は本件トラツクの運行に関し注意を怠つていない。

(二)  本件事故は、被害者である喜次郎の過失によつて発生した。すなわち、喜次郎は、本件バイクを運転して幅員の狭い道路を進行し幅員の広い国道との交差点に入ろうとしたのであるが、このような場合、運転者としては、交差点の入口で一旦停止し、かつ、左右道路の交通の安全を確認してから交差点に入るべき注意義務があるのに、これを怠り、一旦停止せず、かつ、左右道路の交通の安全をしないまま慢然と交差点に入つたため、本件事故が発生したものであつて、喜次郎が運転者としての注意義務を怠り、かつ、道路交通法令に違反していることは明らかである。

(三)  本件トラツクには構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

二、被告らの抗弁

仮りに、被告らに損害賠償義務があるとしても、本件事故発生については被害者喜次郎に前記のとおり重大な過失があるから、被告らは、本件損害賠償額の算定について過失相殺を主張する。そして、被害者の過失は極めて大であるから本件の損害は原告主張の保険金一〇〇万円で補填されている。

(抗弁に対する原告らの答弁)

抗弁第一項は否認する。すなわち、喜次郎は、本件交差点に入る前、一旦停止し、かつ、左右道路の交通の安全を確認しているのに、被告田中がスピードを出し過ぎ、前方注視を怠つたため本件事故が発生したものである。

抗弁第二項は否認する。

(証拠関係) 〔略〕

理由

一、〔証拠略〕を綜合すると、請求原因第一項の事実を認めることができ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。そして請求原因第二、三項の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、被告田中の過失

〔証拠略〕を綜合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場附近の鳥栖市方面から福岡市方面に通ずる国道(三号線)は幅員約一三米(うち約一一・六米の部分はアスフアルトで舗装されている。)の平坦な直線道路であり、福岡市大字麦野那珂団地から福岡県筑紫郡大野町田屋方面に通ずる市道が福岡市大字麦野四四番地の二自衛隊自動車練習所側で右国道と交差する右那珂団地方面から右交差点に通ずる市道は幅員約五・三米の平坦な非舗装の直線道路で、右国道と市道とはほぼ直角に交差している(別紙見取図参照)。

(二)  国道の西側及び市道の南側は水田で見通は極めて良好であり、ともに本件交差点の約一五〇米の手前から相互に相手車両を確認することができる状況にあつて、右交差点は交通整理が行われていない。

(三)  被告田中は、昭和四〇年二月二八日午前八時一五分ごろ、本件トラツクに酸素ボンベ約六〇本を積み、これを運転し、国道を鳥栖市方面から福岡市方面に向け、その左側を時速約五〇粁で進行中、本件交差点の入口の手前(南方)約二八・一米の地点附近で、市道を本件交差点に向け、その交差点の入口の西方約六・四米附近を時速約二五粁から三〇粁で進行して来る喜次郎運転の本件バイクを認めたが、喜次郎が交差点の入口で当然一旦停車して本件トラツクを優先通行させるものと考え、警笛を鳴らして速度を時速約四〇粁に減速しただけで同人が本件トラツクに気付いているかどうかについて十分の注意を払わないまま進行を続け、交差点の入口の手前約一二米に達した際、本件バイクが前記速度のまま交差点に進入したのを認め、あわてて急停車の措置をとるとともにハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたが間に合わず、国道の中央線附近で本件トラツクの左前部附近を本件バイクに衝突させて喜次郎を路上に転倒させたうえ、約二四・七米進行してようやく停車した。

(四)  喜次郎は、事故当日防寒帽をかむり、本件交差点入口附近で徐行又は一旦停車せず、かつ左右道路の安全を確認することなく時速約二五粁から三〇粁の速度のままで本件交差点に進入し、約二米進行して危険を感じ急停車の措置をとつたが約三・三米スリツプして前記場所で衝突した。

(五)  喜次郎は、直ちに福岡県筑紫郡大野町七三九番地秦外科病院に収容されたが同日午前一一時ごろ死亡した。

右認定に反する甲第七号証(被告田中の検察官に対する供述調書)の記載部分、証人宮原信治、同加隈保喜、原告正良及び被告田中各本人の各供述部分は、〔証拠略〕に照らして信用できないし、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

右の各事実によれば、被告田中が見通しの良好な本件事故現場附近の国道で、本件交差点に進入しようとする喜次郎運転の本件バイクを認めたときにはその発見が遅れたため、すでに、被告田中は交差点入口まで約二八・一米に、喜次郎は交差点入口まで約六・四米にそれぞれ迫り、しかも被告田中は時速約五〇粁、喜次郎は時速二五粁から三〇粁という速度で進行しており、従つて喜次郎が本件トラツクに気付かずそのまま交差点に進入するおそれが多分にあり、このことは当然予想できたのであるから、このような場合、自動車運転者としては、これに対処するため、直ちに、警笛を鳴らして相手に警告を与えるのは勿論、いつでも停車避譲できるよう減速徐行し、相手車両の動静に十分注意して進行し、もつて衝突などによる事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、被告田中はこれを怠り、喜次郎が交差点入口で当然一旦停車するものと軽信し、警笛を鳴らし単に速度を時速四〇粁に減速したのみで慢然その進行を続けたため、喜次郎が交差点に進入して来たのを認めたときには、交差点の入口まで約一二米に迫つており、あわてて急停車の措置をとるとともにハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたが間に合わず、国道の中央線附近で本件事故を発生させたものであるから、右事故発生について被告田中の過失は明らかである。

従つて、被告田中は、不法行為者として民法七〇九条により喜次郎の死亡による損害を賠償する義務がある。

三、被告会社の責任

本件事故発生について運転者である被告田中に過失があることは前記認定のとおりである。従つて、被告会社の自賠法三条但書の抗弁は、その余の事実について判断するまでもなく理由がないから、被告会社は、自賠法三条本文の規定により、喜次郎の死亡による損害を賠償する義務がある。

四、喜次郎の財産上の損害

(一)  治療費

〔証拠略〕を綜合すると、喜次郎は本件事故による受傷のため前記秦病院で治療を受け、その費用として金二万六、九〇〇円を要したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  請負業による得べかりし利益

〔証拠略〕を綜合すると、喜次郎は、明治三八年八月二四日生(この事実は当事者間に争いがない)れの健康な男子で、昭和三一年ごろから冷暖房工事の請負業を始め、本件事故当時は従業員五名を使用して右請負業を営み、年間総額金四二八万一、三七〇円(甲第一〇一号証と同第一〇三号証は重復するものと認める)の収入を得ていたこと、右収入のための人件費、材料費等の必要経費は年間金三四二万一、三七〇円を要していたことが認められるから同人は少くとも年間金八六万円の収益をあげていたことになる。そして、同人の一年間の生活費が金三六万円(月額金三万円)であることは当事者間に争いがないから、この生活費を控除すると、同人は年間金五〇万円の純利益を得ていたことが認められる。

ところで、厚生大臣官房統計調査部作成の第一〇回生命表によれば、満五九才の男子の平均余命は一五、六五年であるから、喜次郎が本件事故によつて死亡しなければ、なお右年数の間生存し得たと推認され、かつ、同人の職業からして、あと六年間は同種の業務につくことが可能と考えられ、従つて六年間にわたり、少くとも前記金額を下廻ることのない純利益を得ることができたものと推認することができる。

従つて、喜次郎の死亡によつて喪失した六年間の利益の現在価値をホフマン式計算法により、一年ごとに純利益金五〇万円が生ずるものとして算出すると、金二五六万六、八〇〇円となる。

<省略>

(三)  恩給による得べかりし利益

〔証拠略〕を綜合すると、喜次郎は、終戦前台湾で約二〇年間警察官を勤め、死亡当時普通恩給として年額金九万五、六二〇円の支給を受けていたこと、同人の死亡後その妻であつた原告愛子が右の半額にあたる金四万七、八一〇円の扶助料の支給を受けていることが認められるから、喜次郎の死亡による普通恩給の受給利益の喪失の年額は前記恩給から扶助料を控除した金四万七、八一〇円となる。

ところで、喜次郎の平均余命は前記のとおり一五年(一五、六五年であるからこれを一五年とみる。)であるから、喜次郎の死亡によつて喪失した一五年間の利益の現在価値をホフマン式計算法により、一年ごとに純利益金四万七、八一〇円が生ずるものとして算出すると、金五二万四、九九二円となる。

<省略>

五、過失相殺

喜次郎が前記市道から交通整理の行われていない本件交差点に進入するに際し、交差点の入口附近で徐行又は一旦停車せず、かつ、左右道路の安全を確認しないまま時速約二五粁から三〇粁の速度で進入したことは前記認定のとおりである。

ところで、車両の運転者は、交通整理が行われていない交差点に入ろうとする場合には、その通行している道路と交差する道路がその進行している道路の幅員よりも明らかに広いものであるときは交差点の入口附近で先ず徐行して左右道路の安全を確認して進入し、もつて衝突などによる事故の発生を未然に防止すべき注意義務があり、さらに幅員の狭い道路から交差点に進入しようとする車両は、明らかに幅員の広い道路から交差点に進入しようとする車両があるときはその車両の進行を妨げてはならない(道路交通法三六条)のにかかわらず、喜次郎はこれを怠り、前記のとおり慢然本件交差点に進入したため、本件事故が発生したものであるから、本件事故発生につき同人に重大な過失があること明らかである。

以上の点を考慮するとき、本件事故による喜次郎の前項の財産上の損害金三一一万八六九二円のうち被告らに負担させるべき範囲は、ほぼその三分の一にあたる金一〇〇万円をもつて相当と認める。

六、原告らの相続権

原告愛子が喜次郎の妻であり、その余の原告らが喜次郎の実子であることは前記認定のとおりであるから、原告愛子は右金額の三分の一にあたる金三三万三、三三三円(円未満切捨、以下同じ)、原告正良、同亮二、同淳子はそれぞれ前記金額の九分の二にあたる各金二二万二、二二二円宛の損害賠償請求権を相続により取得したことになる。

七、原告愛子の財産上の損害(葬儀費)

〔証拠略〕を綜合すると、原告愛子は、夫喜次郎の葬式、法要等の費用として、別紙葬儀費一覧表の1から21(ただし電話料のうち一、五〇〇円は控除)までの合計金一四万七八七円を支出したことが認められ、右金額は喜次郎の職業、社会的地位等から考え相当な額であると認める。そして、本件事故発生については被害者喜次郎に過失があること前記のとおりであるから、右損害額のうち被告らに負担させるべき範囲は、ほぼその三分の一にあたる金五万円をもつて相当と認める。

原告愛子主張のその余の損害について、原告正良本人の供述中には右主張に添う部分があるが、他に右供述を裏付けるに足る証拠がないから、右主張は採用できない。

八、原告らに対する慰藉料

〔証拠略〕を綜合すると、原告愛子(大正六年三月二日生)は昭和二一年六月一八日喜次郎と内縁関係を結び、昭和三〇年一一月一一日婚姻の届出をし、喜次郎の請負業の手伝をしていたが、同人の死亡後は原告正良、同亮二から生活費の援助を受けて生活していること、原告正良(長男、昭和一〇年一〇月三一日生)は地方公務員として福岡市消防局に勤務していること、原告亮二(次男、昭和一三年六月二六日生)は中学校の教員として勤務していること、原告淳子(長女、昭和七年四月三日生)は昭和二九年四月二六日宮川清一郎と婚姻していること、被告らは喜次郎の死亡に際し金三、〇〇〇円を贈つたことの各事実が認められ、原告らが夫であり父である喜次郎の事故死によつて甚大な精神的苦痛を蒙つたであろうことは察するに余りある。これに前記認定の加害者、被害者双方の過失の態様その他本件に現われた一切の事情を考慮して、原告愛子に対する慰藉料は金六〇万円、原告正良、同亮二、同淳子に対する慰藉料は各金三〇万円と定める。

従つて、原告らの被告らに対する損害賠償請求権は、次のとおりとなる。すなわち、原告愛子は前記第六項の相続による金三三万三、三三三円、前項の葬儀費金五万円、前記慰藉料金六〇万円の合計金九八万三、三三三円、原告正良、同亮二、同淳子はいずれも前記第六項の相続による金二二万二、二二二円、前記慰藉料金三〇万円の合計金各金五二万二、二二二円となる。

九、損害の充当

原告らが喜次郎の死亡により自賠法による保険金一〇〇万円の給付を受けたこと、これを原告らの相続分の割合に応じて按分し、被告らに対する損害賠償請求権のうち、原告愛子は金三三万四、〇〇〇円を、原告正良、同亮二、同淳子はそれぞれ金二二万、二、〇〇〇円を充当したことは当事者間に争いがない。

そうすると、原告愛子の損害賠償請求権は金六四万九、三三三円、原告正良、同亮二、同淳子のそれは各金三〇万二二二円となる。

一〇、むすび

よつて原告らの請求中、被告らに対して、原告愛子が金六四万九、三三三円、原告正良、同亮二、同淳子が各金三〇万二二二円及び右各金銭に対する不法行為の日の翌日である昭和四〇年三月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるから、これを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行及びその免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口茂一)

〔別紙〕 見取図

<省略>

〔別紙〕 葬儀費一覧表

<省略>

以上

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